パソコン遠隔操作事件から見た刑事事件の闇に葬られる真相
パソコン遠隔操作事件について、先日興味深い報道がなされていました。少し長いですが引用します。
法廷では、民間のデジタル鑑識の専門家が、モニターを使いながら、不正プログラムの解析結果を証言。ポロシャツにジーンズ姿の片山被告は約1時間40分、時折、腕を組みながらリラックスした様子で聞き入っていた。
証言を聞き終えた片山被告は、弁護人の質問で「おおむね合っています」と認めたが、補足するように、「捜査機関が、まだ見つけていない方法で痕跡を消しました」と告白。「捜査機関はアクセスしたサーバーの1つは突き止めたが、サーバーは2つ使った。プログラムを上書きさせる方法で痕跡を消したため、誤認逮捕された男性のパソコンからは何も発見されなかった…」。よどみなく手口のタネを明かした。
引用元:片山被告、PC遠隔操作のネタばらし 「プログラム作る能力ない」が一転 : 社会 : スポーツ報知
この記事から、刑事裁判の限界がよく分かります。
法廷で専門家が解析結果を証言すれば、裁判官はそれを前提にして(悪く言えば鵜呑みにして)して判決を書きます。
もし片山さんが真実を明らかにしなければ、判決は専門家の説明に沿った内容となるでしょう。
真実は「2つのサーバーを使った」にもかかわらず、判決では「1つのサーバーを使った」という認定がなされるわけです。
もちろん、これは仕方ありません。
多くの犯罪は人目につかない所でこっそりと行われます。
今回のように痕跡をうまく消されてしまえば、真実を明らかにするのはどう考えても不可能です。
裁判所や捜査機関は大変です。
証拠のみから真実を明らかにしなければならないからです。
被告人から無制限に情報をもらえる弁護人とはわけが違います。
さて、ここで刑事裁判の大原則「疑わしきは被告人の利益に」を思い出して下さい。
刑事裁判はグレーなら無罪、完全にブラックでないと有罪にできません。
本件で今のところ矛盾が明らかになっているのはサーバーの台数だけですが、こういった細かい食い違いがどんどんと出てくると、最終的に検察側の立証が破綻して無罪になることもありえます。
ただ、今回のように矛盾がたくさん主張できそうな場合であれば良いのですが、小さな矛盾がいくつかあるだけの場合、残念ながら裁判官は、被告人に不利な証拠のみを上手いこと料理して「有罪」という判決を書いてしまいます。
今回は、片山さんが正直に述べたことから、判決文はより真実に近づくことでしょう。
しかし、もし片山さんが真実を述べていなかったら、また今でも犯行を否認していたら、その判決文というのは、真実とかけ離れたものになっていたはずです(有罪判決の場合は特に)。
それに裁判所は、供述だけでは被告人に有利な事実を認めてくれません。
被告人がどんなに「真実はこうなんだ」と述べても、証拠がなければダメなのです。
痴漢裁判が良い例です。
結局、人がやることなので間違いはあるのですが、実際に裁判をやっていると釈然としないことばかりです。