ハイスコアガール事件にみる同人誌ビジネスの危うさ
押切蓮介さんの漫画「ハイスコアガール」の出版元であるスクエア・エニックスが著作権法違反の疑いで警察の捜査を受けました。
SNKプレイモアが著作権を有するゲームのキャラクターを無断で登場させた疑いとのこと。
ハイスコアガールのコミックスなどは回収、月刊ビッグガンガン上での連載は一時休載となりました。
私が小学校の頃は格闘ゲーム全盛期でした。
SNKに限るだけでも、餓狼伝説はストUと違って手前と奥の概念があったり、コマンドが複雑だったり、ネオジオがある人の家に集まったりといった思い出が浮かんできます。
このような格闘ゲーム全盛期を舞台にしたラブコメが、ハイスコアガールという作品でした。
著作権法違反となるとどうなるか
具体的に著作権法のどの条項に違反したかについてはまだ分かりません。
ただ、著作権法119条(罰則)には、著作権などを侵害すると10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれを併科すると書いてあります。
懲役まであるかなり重い犯罪なのです。
同人誌ってほぼ全部アウトなのでは?
今年も8月15日から東京ビッグサイトでコミケが行われます。
開催日やエリアによっても異なりますが、3日目などはかなりの商品が著作権侵害の疑いが強いはずです。
初音ミクのように利用のガイドラインがあるものや、二次創作を認めるる同人マークがあるものは別ですが、そうでない作品がほとんどでしょう。
というわけで、ほとんど全ての同人作家さんについて、同じように警察の捜索を受ける危険をもっているのです。
でも、これまでも黙認状態だったし、大丈夫でしょ?
CLAMPさんのように、同人作家として経験を積み、メジャーデビューした漫画家の方はたくさんいらっしゃいます。
同人業界が漫画家供給の1つとなっている以上、出版社や権利者の方がいきなりつぶしにかかるということはないでしょう。
それに、権利者のSNKプレイモアは「なんら誠意ある対応がなかった」と言っています。
著作権侵害にかかる刑事罰は基本的に親告罪といって被害者が告訴しなければ裁判にすることはできません。
権利者からのクレームにきちんと対応しておけば、刑事事件化することは少ないといえます。
とはいえ、クレームがあった段階で在庫商品を全て処分しなくてはならないというリスクは常に背負います。
ちょっと昔の話ですが、ドラえもんの最終話を勝手に創作して同人誌として売ろうとしたところ、小学館からクレームがあり、謝罪した上で商品を全て廃棄したという事件がありました。
黙認だからといって、その状態が今後もずっと続くとは限りませんし、権利侵害の度合いが大きければクレームとなったり、刑事事件となる可能性も十分あるのです。
ハイスコアガールの作者である押切蓮介さん個人の責任は?
作者が無許可であることを知っていたらアウトです。
ただ、編集者から「許可はきちんととってある」と言われていたら、「事実の錯誤」となって責任なしとなる可能性はあります。
とはいえ錯誤については学説上、また判例上色々な考え方があるので、絶対に事実の錯誤となるか私は保証できません。
恐らく作者は「許可を取ったと聞いていた」と主張するでしょうから、その場合にどんな判断がでるか注目です。
引用なので合法だと主張できないか
主張としてはありえます。著作権法32条1項も、一定の条件のもとで引用を認めています。
ただ、作品の性質上、引用の要件(必要性、区分け、主従、出所明示など)を満たしていたと主張するのはハードルが高いように感じます。
ちなみに、適正な引用ではないものを「適正だ」と思っていたというのは上で述べた事実の錯誤にはあたらないので(ここが錯誤の難しいところです)、この場合はアウトです。
まとめ
警察から捜索を受けると、書類や作品を押収されてしまいます。
デジタルで描いている方は、パソコンも持っていかれてしまうでしょう。
同人誌を作るのであれば、権利者からの連絡をきちんと受け取れるよう、連絡先をきちんと明示しておくこと、クレームがあったら即座に対応すること、その場合に作品の廃棄を躊躇しないことが肝心です。
平成26年12月23日追記
「ハイスコアガール事件」で作者らが送検されたことにつき、研究者や実務家26名が連名で、これ以上刑事手続を進めるべきではないという声名を発表しました(こちら)。
メンバーは超一流の専門家たちばかり、ワンピースでたとえると四皇が共同で声名を出したレベルです。
一方ルーキーの私は、11月24日に「罰金刑になる可能性が高いと言われている」なんて曖昧なコメントをしましたが、これはもしかして作者とスクエニの大勝利があるんでしょうか…
26人の専門家は、「明確」な著作権侵害について刑事手続を進めるのはいいけど、今回のように「微妙」な場合は表現の自由に配慮して捜査とか中止しなよという旨を主張しています。
ただ、「微妙」な問題であればあるほど、検事って「裁判所に判断してもらうべき問題」とか言って開き直るんですよね…。
判決が出れば今後は実務上も「明確」に判断できるようになるわけですし。
そんなわけで、いくら著作権侵害の成否が微妙だと声高に主張しても捜査機関が刑事手続をストップする動機にはならないのでは?と思うのです。
とはいえこの26名の共同声明は相当にインパクトがあります。今後の進展が興味深い話題です。
平成27年8月27日追記
当事者間で平成27年8月24日、和解が成立したようです。
その結果、刑事告訴は取下げ、民事訴訟は取下げ又は和解で終了、「ハイスコアガール」の販売が継続できることになりました。
近所の漫画喫茶でも棚から撤去されていたのですが、これでまた読めるようになるでしょう。